少量多品種の現場に、専用機とディスペンサーのどちらが向くか
生産技術の宮下亮介です。
電機メーカーで18年ほど基板実装とモーター組立のライン立ち上げをやってきて、いまは中小の製造業さんの塗布工程を見て回っています。
現場でいちばん多く受ける相談が、これです。
「品種が増えすぎて、専用機を組むべきか、汎用のディスペンサーで回すべきか判断できない」。
結論から言うと、これは好みや予算感で決める話ではありません。
自社の受注の形を数字で見れば、かなり機械的に切り分けられます。
目次
判断の起点は「受注頻度×ロットサイズ」
中小企業基盤整備機構が運営するJ-Net21の多品種少量生産における効率的な生産方法では、受注を「受注頻度」と「ロットサイズ」の2軸、4象限で整理する考え方が示されています。
これを設備選定に置き換えると、こうなります。
- 多頻度・大ロットの品目が突出している → 専用機を組む価値がある
- 品種が散っていて、1品目あたりの頻度が低い → 汎用ディスペンサーで段取り替えを速くする方が有利
- 少頻度・大ロットが混ざる → 汎用機を軸に、その品目だけ治具で作り込む
同記事でも効率化の要諦は段取り時間の短縮とされています。
専用機は「その1品目を最速で流す」ための投資です。
月に数回しか流れない品目のために専用機を1台立てると、稼働率が上がらないまま償却だけが乗ります。
少量多品種で本当に効くのは「粘度が変わっても吐出量が変わらない」こと
汎用機で回すと決めた場合、次に問題になるのが材料の切り替えです。
シリコーン、エポキシ、グリスと材料が変わるたびに条件を出し直していては、段取り短縮になりません。
ここで効いてくるのが吐出方式です。
エア圧送式(シリンジ式)は、空気圧をかける時間で吐出量を調整します。
つまり、粘度が変われば同じ時間でも出る量が変わります。
高粘度材はこの粘度が実によく動きます。
キーエンスの流体の粘度と目安によれば、20℃の水が約1mPa·s、かなりドロドロした印象のあるグリセリンでも約1,500mPa·sです。
グリスや高フィラー入りの樹脂はこの桁をさらに大きく超えてきます。
しかも粘度は温度で変わります。
タンクに入れたときと、ホースを通ってノズルから出るときで液温が違えば、それだけで吐出量はぶれます。
グリスの多くが持つチクソトロピー性(静止状態から流動状態に移ると粘性が下がる性質)も、時間制御方式では拾いきれません。
対して、プランジャポンプのような容積計量方式は、ポンプが押し出す体積で吐出量を決めます。
粘度が多少動いても出る量は変わりません。
多品種を1台で回すなら、この差は段取り時間そのものに直結します。
高粘度材でどこまで対応できるのかは、詳しくは高粘度樹脂に対応したディスペンサーの仕様ページで確認できます。
ポンプ内の耐圧を19.6MPaまで高め、使用可能粘度1〜1,050,000mPa·sを1台でカバーする仕様が公開されており、汎用機がどこまで守備範囲を広げられるかの目安になります。
専用機と汎用ディスペンサーの向き不向き
現場で私が説明に使っている整理です。
| 観点 | 専用機が向く | 汎用ディスペンサーが向く |
|---|---|---|
| 品種数 | 少ない(1〜2品目が大半) | 多い、今後も増える見込み |
| 1品目の生産頻度 | 毎日・毎週流れる | 月数回程度 |
| 材料 | 固定 | 材料や粘度が品種ごとに変わる |
| タクト | 秒単位の短縮が売上に直結 | タクトより段取り時間が支配的 |
| 将来の変更 | 仕様が数年変わらない | 顧客都合で仕様変更が起きる |
判断が割れるのは、たいてい「今は品種が少ないが、増えそう」というケースです。
このときは汎用機側に倒したほうが、後戻りのコストは小さく済みます。
投資回収を見るときは制度も併せて確認する
設備の稟議では、本体価格だけでなく治具・ノズルなどの消耗品と段取り工数まで含めて計算してください。
専用機は本体が高くても消耗品が少なく、汎用機はその逆になりがちです。
あわせて中小機構の中小企業省力化投資補助金(一般型)も確認しておくとよいと思います。
個別の現場に合わせたオーダーメイド・セミオーダーメイドの設備導入が対象で、補助率は中小企業で1/2、小規模事業者で2/3。
どちらを選ぶかの前に、実質負担額が変わる可能性があります。
なお、一般社団法人日本ロボット工業会の2025年暦年の統計では、輸出が前年比32.4%増と伸びる一方、国内出荷額は10.8%減となっています。
国内の現場が大型自動化に慎重で、工程単位の最適化に投資を寄せている流れは、数字にも表れているように見えます。
まとめ
専用機か汎用ディスペンサーかは、受注頻度とロットサイズを並べれば、かなりの部分は決まります。
迷ったら、まず直近1年の品目別出荷数を出してみてください。
そのうえで汎用機を選ぶなら、粘度変動に強い容積計量方式かどうかを必ず確認すること。
高粘度材を扱う現場では、ここが段取り時間と不良率の両方に効いてきます。
導入前にメーカーのテストルームで実材料を流せるかどうかも、選定の分かれ目になります。
カタログの数字だけで決めず、自社の材料と自社のタクトで確かめてから判断してください。
最終更新日 2026年8月5日 by ommuni